「エタリの塩辛」とは、カタクチイワシの塩辛
エタリとはカタクチイワシの地方名です。つまり、カタクチイワシの塩辛という事です。長崎県橘湾産のカタクチイワシを頭もワタもそのままに、塩と合わせて樽に入れ稲藁をかぶせ重石を乗せて熟成させた食品です。水分が上がって来て白粉(しらこ)がふけば熟れたしるし。以前は、秋のお彼岸の頃に漬け込み、海が荒れる冬を乗り切るための保存食でした。地域の方々は蒸かした薩摩芋を片手にエタリの塩辛と交互に食べていたそうです。
世界的にも貴重な食の遺産「味の箱舟」(アルカ)に登録
明治初期から作られていますが、最近は、強い塩気から敬遠され食べる人も作る人も少なくなっています。さらに環境変化などの様々な要因で原料のカタクチイワシが手に入りにくくなったこともあり、このまま食卓から消えてしまいそうになっていました。ですがこの伝統食を残したい、伝えていきたいとの思いが形となりました。2005年にスローフード協会国際本部より、世界的にも貴重な食の遺産「味の箱舟」(アルカ)に登録されました。
「味の箱舟」の登録を受けてからは、生産者が中心となり「エタリの塩辛愛好会」を発足たそうです。エタリの塩辛をよりたくさんの方に知ってもらうために瓶を統一するなどし、販路拡大に励んでいるそうです。
発酵の持つ力と、保存食の魅力
このエタリの塩辛との出会いは大学時代の恩師と大変お世話になっている料理研究家の黒川陽子先生から教えていただいたのが始まりです。当時はスローフードのイベントが年に1回行われていてそのお手伝いとして学生の頃に参加し、その際のブースの一つだったと記憶しています。初めて食べた時は、まだ、漬かりが浅かった印象で、馬見張りましたが微かに生臭いように感じました。
瓶詰めをいただいて帰り冷蔵庫に入れすっかり忘れて半年経った時に冷蔵庫から発見して保存食なので大丈夫だと思いながらも恐る恐る開けてみました。すると、見事にエタリの形は無く発酵し熟成していました。匂いを嗅ぐと生臭みは全くなく魚醤のような香りがしました。食べてみると塩分は濃いですが旨味がしっかりしていてこれは美味しい、熟成する程旨味が増すのかと驚いたのお覚えています。この時には発酵の持つ力、保存食の魅力に引きつけられていました。この時以来常にエタリの塩辛をストックして様々な料理のアクセントとして使っています。お酒を飲む方でよく塩を舐めながら飲むという人がいますがそういう方は是非エタリの塩辛でいっぱいやって欲しいですね。
色んな料理に合いそうな「和製アンチョビ」
味はひと言でいうと、旨味はすごくしっかりしていますが、かなりしょっぱいです。酒の肴、ごはんの友としてそのまま食べるのももちろん美味しいですが、色々な料理に使えそうです。塩辛というイメージではなくアンチョビをイメージする方が伝わりやすいかもしれません。「和製アンチョビ」と言ったイメージです。ドレッシングの材料にしたり、バーニャカウダソース、パスタにも相性がいいです。
このエタリの塩辛は栄養面でも優れています。頭もワタも全てを熟成・発酵させているので旨味成分でもあるグルタミン酸が豊富です。また、イワシペプチドやDHAなどの成分も多く、高い抗酸化能があります。
と言った感じで、カラダにもいいし、万能調味料の要素も秘めているエタリの塩辛。自分なりに寝かせて熟成させ好みに育てるのも楽しいです。是非食べてみてください。